僕の 不機嫌は 君にも 有名らしい いつも ふきげんな 顔は 有名らしい 刃物屋の 店先の 紙製の人形 いつ見ても 皮の砥で ナイフを研いでる いつ見ても いつ見ても さも 機嫌良さそうに 若い 血色のいい顔を 輝かして 往来の人々に 公平に 愛嬌 放き散らしてる 朝から 晩まで 夏でも冬でも 雨でも 風でも 降っても 吹いても いつでも いつでも さも 機嫌良さそうに せっせと ナイフを研いでいる うらやましいような気もする しかし 僕は人形じゃない 生きているのだから 仕方ない ゆるしてくれたまえ 僕のこの頃は 毎朝 ふとんの中で 近所で集まる ラジオ体操を 聞く 一・二・三・四・五・六の かけ声のうちで 「ゴー」だけが 特別に高く 長く 「ゴー」だけが 「ゴー」だけが 飛びぬけて聞こえて 妙に 気になってきて 妙に気恥ずかしくて 背中がこそばいから 短めに「ゴッ」て 切ってもらいたい 僕も 毎朝 ラジオ体操がやれるような ほがらかな気分になれば そしたら きっと いつも 機嫌のいい顔を お目にかけることが 出来るかもしれない
寺田 寅彦 『柿の種/曙町より(十五)』による words & music : Hiro vocal & programing : Hiro acoustic guitar : Aki Ueda Recorded & Mixed by Aki Ueda (C)2005 Hiro & Mentama Music